非常事態の宣言と権力

現在の憲法改正議論で、非常事態条項の問題も挙げられる。大規模災害などで、普通の権利を制限して、より効率的に救済できるようにするためである。これ自体には私も賛成する。非常事態が発生すれば、対応するために非常なことをしなければならないことは予想できる。ただし、その詳細は懸念になる。これで、憲法の役割を忘れてはいけない。憲法は、行政の権力を制限する。その制限を撤廃してはいけない。

第一の問題は非常事態宣言である。この宣言する権利を、一人に委ねるべきである。(もちろん、指定した人ができない場合、当然権利を受け継ぐ人も指定しなければならない。)なぜかというと、非常事態に対応するために、すぐに動かなければならない。監視などは事後に行使するのは適切だが、事前に要求することはできない。非常事態宣言の意味がなくなるからである。災害の質によって、閣僚を集めて閣議決定を確保することもできない場合もあろう。

しかし、指定された人が自分に特別な権力を与えることができたら、大きなリスクが発生する。悪質な為政者が非常事態を宣言して、その権力で独裁者の立場を固める行為は珍しくない。憲法にその可能性を明記してはいけない。

だから、基本方針は、宣言する権利を持つ人と宣言で特別な権力を受ける人は別であることだ。

宣言するのは、総理大臣だろう。できれば閣議決定で宣言した方が良いが、総理大臣が一人で宣言して、急な非常事態に対応できるようにすべきである。そして、行政の最高機関が非常事態を決めるのは適切である。形として、原則として閣議決定を持って宣言するが、必要に応じて総理大臣が宣言することもできる。その場合、適切な時期に閣議決定で宣言を確認してもらう。もらわない場合、非常事態が自然に終わる。

では、総理大臣が宣言すれば、誰が権限を受けるのだろう。地方自治体の長が適切であると思う。主に、県知事を想像しても良いが、場合によって市長なども可能である。東京都青ヶ島村に限った非常事態であれば、村長を指定することも考えられるだろう。同時に複数の知事に非常権を与えることを許すべきである。東日本大震災の場合、被災三県の知事に与えたらよかっただろう。そして、今年の7月豪雨でも、愛媛県、広島県、岡山県で非常事態が必要となっただろう。

県知事はなぜ適切だろう。まず、県の住民によって選挙された人物である。民主主義の立場から考えれば、正当な権利を持っている。その上、総理大臣との関係は薄い場合は多い。総理大臣は国会議員に対して強い影響を及ぼすが、県知事はほぼ独立している。沖縄県知事の行動を見れば明白であるが、小池都知事も明らかな例になる。この状態で、非常事態宣言の悪用を防ぐ能力がある。最後に、県知事は自分の県の現状をよく把握するはずである。だから、非常事態へ適切に対応できる可能性は高い。中央省庁から派遣された人物であれば、まず現地の状態を把握しなければならないので、対応が遅れる。

非常事態を終わらせる権限を、内閣、国会、該当地方を管轄する高等裁判所、地方自治体の議会、そして権力を振るう知事にも与えるべきだろう。非常事態を長引かせることで悪用しようとする場合、終止符を打つ機関があると安心である。終了が早すぎる恐れもあるが、原則として非常事態であるかどうかは曖昧であれば、もう非常事態ではなくなった。日本では想定された非常事態は自然災害であるので、政治的な駆け引きになる可能性が低くなる。

つまり、非常事態を宣言するのは中央の行政である。行使するのは地方自治体の行政の長である。終わらせるのは中央行政、中央立法、司法、地方立法、または地方行政である。このような状態は望ましい。

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