交渉能力

天宇受売神の神話で顕著であるのは、交渉能力だろう。天照大神を天岩戸から誘い出したし、猿田彦神も納得させただけではなく、夫として入手した。だから、宇受女塾で交渉術も教えなければならない。コツはもちろんあるが、ここで基本態度についてちょっと論じたいと思う。

交渉で、競争と違って、自分の希望も相手の希望もできるだけ満たすようにする。そうするために、何が必要なのだろう。

まず、自分の目的をはっきりわかる必要がある。ぼんやりと「それでいいな」と思うのは話にならない。そして、自分の理想も自分の最低限も明白にしなければならない。絶対にしないことを決めておかないと、交渉の潮に流されて、嫌な結末になる虞がある。交渉の中で何を譲歩するか、何を提供するかを即座に具体的に判断しなければならないので、自分の立場から見る具体的な選択肢を事前にはっきりすべきである。もちろん、そうではない場合もあるが、はっきりした目的を持っていない場合、交渉を行っていない。打ち合わせ等になる。これも人間関係の中で重要であるが、交渉と違う。(打ち合わせ等の場合でも、絶対にしないことを決めておいた方がいいかもしれないが。)

次は、相手のことをよく考えるのである。相手を理解して、相手の目的を把握する。相手を理解しない限り、交渉がうまくいくはずはない。理解するため、よく聞く必要がある。相手が必ずしも自分の希望をはっきりしているとは限りないので、巧みに話したり聞いたりするしかない。相手の理解に基づいて提案するので、自分の目的の理解と同じように重要であろう。

最後は、相手の希望を自分の希望とほぼ同じレベルで考えることである。自分の希望を僅かに優先するのは妥当だろう。

なぜなら、交渉の目的は勝つことではないからだ。交渉で相手に勝つより、両方に好ましい結果を出すことを目指す。それは交渉と競争の根本的な相違点であろう。真正面から衝突する希望を持つ場合、競争になるしかないが、その場合は思うほど頻繁ではない。領土問題はこれに近い状態だろう。交渉が終わったら、主権が片方に着くので、双方は「絶対私に着くべき」と思ったら、交渉の条件が成り立たないだろう。しかし、例えば島の主権を持つといいけれども、実は重要なのは漁業権であれば、交渉の余地が発生する。島の主権を譲るが、海域の境界線を特別に定めて、領海を確保するような結果があり得る。

個人レベルで同じようなこともある。二人が同じポストを目指せば、競争になると思いがちであるが、目指す側面が違ったら、交渉して、共同で会社にポストの分割を提案する選択肢もあるだろう。交渉をうまく行うために、柔軟性は必要不可欠である。そして、相手に優しくすることも有利だ。但し、自分の絶対線を把握して、それを堅く守ることも必要である。

このバランスは簡単ではないし、相手の気持ちを正しく読み取ることも難しい。だからこそうまくいかない交渉は多いだろう。このようなことがわかれば、自分の価値を保護しながら、相手をなるべく幸せにするのは交渉であるので、宇受女に相応しいのではないか。

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